イギリスへ旅行へ行ったときのことです。それまでにも海外旅行は何度も経験しており、このときも1週間の気ままな一人旅を堪能して帰路につきました。
ヒースロー空港でチェックインをしようとチケットを渡したのですが、なにか中で確認をしていてなかなかチェックインができません。すると、やっと中から出てきた航空会社のスタッフから「このチケットでは搭乗できません。これは昨日の便のチケットですから無効です」と言われ、チケットを突き返されてしまいました。まさかの大失態で、帰国便の日にちを1日間違えて取ってしまっていたのでした。
私の持っているチケットは既に無効なので、今日の飛行機に搭乗するためには新しいチケットを購入しないといけないのです。所持金は20ポンド(当時で4000~5000円)程度しかなく、クレジットカードも限度額いっぱいまで旅行費用で支払っていたために、正規運賃で10万円以上もする帰路のチケットを買うことができません。自分のミスを棚に上げて、パニックになった私は航空会社のカウンターでゴネ始めました。現金もカードもないし、イギリスに知り合いもいない。このままでは帰れない、どうにか助けてくれないかと懇願しました。
でも、規則は規則。明らかにミスをしているのは私なので、いくらお金がないと言っても完全に自己責任です。当然首を縦にはふってくれませんでした。私は自分のおかした失態に茫然としてしまい、異国の地でお金を調達する方法もまったく考えつかずに途方に暮れてしまいました。「このままでは帰れない...」と、今まで経験したことのない不安に駆られて涙が流れてきました。そしてカウンターを離れ、大きな窓の下までやっとの思いで歩いていくと、そこにへなへなと座り込んでしまいました。
すると、60代くらいのイギリス人のおばあさんが声をかけてきてくれました。私が航空会社の人と揉めていた話を聞いていたと言います。「あなた、このままここにずっといるわけにはいかないでしょう?こちらにお金を借りられるお友達がいないなら、私とお友達になればいいわ」と、そのおばあさんはゆっくりした英語で私に言ってくれました。最初は何かの聞き間違いかと思いましたが、そのおばあさんは私に立つように促して、さっきの航空会社のカウンターへ行き、私の帰路のチケットを購入してくれたのです。10万円以上もするチケットを全く見ず知らずの私のために買ってくれたのです。チケットの日付を間違っていたこと以上に「こんなことあり得るの?」という経験でした。
「なぜ赤の他人の私にここまでよくしてくれるのですか?」と尋ねたところ、そのおばあさんは「若いころいろいろな国を旅をしていた時期があって、行く先々でいろんなトラブルを経験したわ。でも困ったことが起きてもそのたびに人に助けられたの。今の私がいるのはその人たちの助けのおかげ。だから私は今その恩返しをしているの」と話してくれました。そして「もう行かないと、香港行きの飛行機の搭乗に間に合わないわ。余裕ができたらでいいから、ここに連絡をしてね」と名前と連絡先を紙のはし切れに書いて私に渡すと、スーツケースをもって荷物チェックのゲートへと行ってしまいました。私はおばあさんに向かってとにかく「ありがとう、ありがとう」と頭を下げることしかできませんでした。飛行機に乗ってホッとすると、おばあさんのやさしさに涙が込み上げてきました。
その後、おばあさんのおかげで無事に日本に帰国することができた私は、さっそくもらった紙に書いてあった連絡先にメールをしました。お金はすぐに貯金を下ろしておばあさんに振り込み返済をしました。それ以来、おばあさんとはずっと友達としてやりとりを続けています。世界中を旅した話もいろいろと教えてくれました。自分ではとんでもない失敗だと思った最悪の事態から一転、こんな形で素敵な出会いがあったとこを、今では本当にうれしく思っています。
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